19. 欲しいものを手に入れたいだけ
「グリエちゃん」
「あっれーどうしたんですか姫。こんなとこまでお一人で。隊長が心配しますよ」
「何でコンラッドが心配?いや、そうでなくってね。ベッド借りてもよいですか?」
「はぁ?いや、あのそういうのは」
「何もやましいことしないよー。ここ来て貸してもらってる部屋のベッドがさ、やわらかすぎて寝られなくって。頭が陥没するぐらいにふっかふかの枕と布団じゃ安眠どころか逆に不安で不眠症よー。だからグリエちゃんのベッド貸してー」
「いやそういうのは隊長とか他の人に頼んだ方がいいんじゃないっすか」
「だから何でそこでコンラッド?っていうか仮にも元王子殿下様方がだよ?貧乏臭い煎餅布団で寝るわけないじゃん」
「貧乏くさくって悪かったすねー」
「んーん、私もぶっちぎり庶民で貧乏族だもの。お友達だねグリエちゃん」
「あーはいはい」
「そんじゃお借りしまーす」
「って、ちょっと待ってくださいよ姫。俺も任務で徹夜明けで今から寝ようとしてたのに」
「えー」
「えーじゃないです。他あたってください」
「けちんぼ」
「はいはい。早く部屋に戻ってくださいねー。隊長が心配して探しに来ちゃいますから」
「だから何でコンラッドが私の心配するの?コンラッドが心配するのはユーリでしょ?」
「それ素で言ってます?」
「何が?」
「いいですけどー」
「何よぅ。気になるじゃないのよー。つうか眠いのー」
「俺も眠気ばっちこーいなんですー」
「ぶーぶー。グリエちゃんが冷たいー」
「人は三大欲求の前には非情になるもんです」
「私だって眠いのにー。あ、じゃあさ一緒に寝よう」
「はぁ!?ちょ、何言ってんすか!」
「いいじゃんいいじゃん。私寝相は悪くないよ?グリエちゃんの胸にすっぽりおさまる抱き枕になってしんぜよう」
「そりゃあ最近ちょっとこの布団だけじゃ寒いかなーとか思ってましたけど!ってそうでなくってですね!」
「もういいじゃん。寝ようよ。利害が一致してるんだよ?論争するだけ無駄だよー暖をとれるなら善き哉善き哉〜じゃあ早速おやすみなさーい」
「ってちょっと姫!こんなとこ隊長に見られたら俺死んじゃうって!明日の朝日が拝めなくなっちゃう!」
「だからどうしてそこでコンラッドが出てくるのよーもう危険があるならグリエちゃんのこと守ったげるから。とにかく寝ようよ眠いー」
「あーもー、どうなっても知らないっすよー?」
「いいのいいのー。今がよけりゃ後の事なんてどうでもいいのー」
「見かけによらずなんて刹那快楽主義……」
「ほら早くお布団に入る!そんで楽な格好してね。私はその隙間に入るから」
その後夕方まで寝こけた私とグリエちゃんは、ユーリに見つかり大声で叫ばれ、ヴォルフラムに真っ赤な顔で説教され、グウェンダルに何ともないかと数十回訊かれ、ギュンターに涙ながらに男と同衾するのはよしてくださいぃぃぃと訴えられ、コンラッドに二人仲良く笑顔でお説教されました。あんなに笑顔で恐ろしい思いをしたのは初めてです。