護廷十三隊十三番隊所属第八席。
彼の肩書きはこうだ。
彼の好きなものは『小さくて可愛いもの』である。
花愛でる君
「あらじゃないの」
十番隊副隊長松本乱菊が後輩である雛森桃とちょっとした近況を話し合っている最中に、十三番隊の詰所の方角からやってきた馴染みのある顔を見つけて声をかけた。
鴉の濡れ羽色のように深い漆黒の髪に桔梗色の瞳を持つ美丈夫だ。
彼は自分の名を呼んだ乱菊に気付くと遠目でもはっきりと判るほどに綺麗に笑って、それから早足で二人の方へやってきた。
「乱菊、久しぶり。それから桃ちゃんも」
同期の彼女には軽く挨拶を、そして後輩の小さな少女には少し膝を曲げて覗き込むようにして人懐っこく笑いかける。
「お、お久しぶりです!さん!!」
至近距離で整った顔に微笑まれて、雛森の顔が耳どころか首まで一気に沸点に達する。
「あはは、相変わらず可愛いなー桃ちゃんは」
持っていた書類を片手で抱えなおしては空いた方の手で自分の胸辺りまでしかない身長の少女を撫でる。
それを見ていた乱菊が腰に手をあて、呆れたように息をつく。
「あんたのその『小さいモノ好き』も変わってないわね」
「人の嗜好なんてそうそう変わるもんじゃないぞ」
「犯罪にだけは走らないようにしなさいよ」
「失礼な。俺がそんなヘマするように見えんの?」
「見えないから余計にタチが悪いのよね」
官位の違いはあれど、同期の気安さからか会話は弾む。
先輩達のその様子を雛森はいいなーと思いながら見つめていた。
そしてそろそろ隊舎に戻らなくては、ということを思い出す。
「あの、乱菊さん、さん。あたしそろそろ戻りますね」
滅多に会うことの出来ないともっと話していたかったし、名残惜しいが仕方が無い。
ぺこり、とお辞儀をして自分の隊舎の方へ向かう彼女の背には声をかける。
「桃ちゃん、今度また一緒に甘味処にでも行こうな。席次が上がったお祝いまだしてないもんなー」
にこり、と猫のように笑いながら言うに顔が火照る。
「は、はいっ!!是非っご一緒させてください!!」
思わず握り拳まで作って答えた彼女には微笑んで手を振った。
足取り軽く後輩が去って行ったのを見送りながら乱菊はまたもや大きく息をついた。
「そういえば仕事中?」
今更のように思い出して乱菊が問えば、は手にした書類をひらひらとふって見せる。
「そ、三番隊にお届けモノの途中。今日の俺は郵便屋さんなの」
「ギンのとこに?珍しいわね、が自分でギンのところに行くなんて」
言って、乱菊が驚いたように軽く目を瞠る。
その視線の先では乾いた笑いを漏らした。
「俺だって出来れば行きたくなかったぜ。しかも今日は非番だし。たまたまやり残した書類届けに詰所行ったら
隊長が倒れたってんで大騒ぎ。人手が足りないってんでしょうがなーく引き受けたんだよ」
「『しょうがなく』って酷いー」
その場に乱菊と以外の声がして、同時にの背にずっしりと覆いかぶさる人影。
さらりと揺れた銀髪と、独特のイントネーション。
袖なしの白い羽織には『三』の文字。
三番隊隊長の市丸ギン。
「あー重い重い重い。ギン離れろ、鬱陶しい」
「酷っ!はいっつもボクにだけ優しゅうないわ」
「何でおまえなんかに優しくしなきゃなんねーんだよ。俺の愛はおまえなんかよりもっとずっと小さくって可愛いもんに注がれるべきなんだよ」
「何でやの!?何ではいっつもボクに冷たいん!?」
市丸の方が背は高いから、抱きついたまま耳元で喚く彼には心底迷惑そうな顔をする。
そんな同期の二人を正面から見ていた乱菊は「変わらないわね」と小さく呟いて呆れ笑いを漏らす。
昔から、この三人は出来得る限り一緒にいた。
市丸などはいつもに付きまとってはこうして鬱陶しがられていた。
自分に懐いてくるものは大抵可愛がるだったが、どうしてだか市丸にだけは冷たい態度をとる。
しかしそれは傍から見れば、という観点であって、実際は必ずしもそうでないということをこの二人は判っている。
判っていて市丸はにくっつき、そしてはそれを追い払う。
そして時が経った今、それぞれ死神となり責任ある立場になってもそれは変わらない。
「そや、」
抱きつくのをやめた市丸が身体を離してを見る。
は面倒くさそうに返事をした。
「何だよ」
「ボクの引き抜き要請却下したやろ?」
「したな」
あっさりと返すに市丸は「何でやの!?」と今度はの両肩を掴んで強く揺さぶる。
「また?ギンも懲りないわね」
「そうなんだよしつこいんだよコイツ。何とか言ってよ乱菊」
「そやかてがボクんとこに来てくれへんのが悪いんやんか。こないにボクが熱烈に誘致してんのに全部無視やで、無視」
よよ、とその場に泣き崩れる市丸を一瞥もしないではその場を立ち去ろうとする。
「さーてそろそろ書類届けに行くか。イヅルが待ち侘びてるかもしれないしなー」
「戻るんなら途中まで一緒に行くわ」
「二人共酷すぎるわ!」
涼しい顔して自分を無視する二人に市丸は本気で泣きそうな声を上げる。
仮にも隊長である彼が、副隊長の乱菊と高々八席でしかないにこれほどぞんざいな扱いを受けると知ったら、他の死神たちはどう思うだろうか。
それでも本人達は気にしていないので全く問題は無い。
今もそう。
泣き真似を続ける市丸を少し歩いてから呆れたように振り返るを見て、乱菊は変わらないわね、と小さく微笑んだ。
の視線に気付いた市丸が駆け寄って、再びの背におぶさると、黒髪の青年は面倒臭そうに「届け物が増えた」と呟いてそのまま引きずるように歩き出す。
変わらない関係。
いくら時が経とうとも、この三人の居場所はココに在った。
「そういえば新しく来たウチの隊長、好みの『小さい』子よ」
「乱菊それ本当?今度見に行っていい?」
「ずるいっ十番隊だけやのうて三番隊にも遊びに来てぇや」
「あー行ってやってもいいけどおまえがいない時になー」
「冷たい!!」
男主人公でギン、乱菊の同期。
見かけは美人、腕っ節は最強、特技は料理、のみんなに愛される十三番隊八席です。
可愛い物好きで瀞霊廷中にその名を轟かしています。
お気に入りはやちる、桃、ルキアなど。
小さくないけど恋次やイヅルも可愛がってます。
完成日
2005/07/04