睡眠不足。
〜市丸ギンの場合〜
珍しいこともあるもんやなぁ。
が寝とる。
いつもみたいにイヅルの目ぇ盗んで遊びに来た十三番隊の隊舎。
ぽかぽか陽気の外やのうて、隅の方の空き部屋で。
長椅子の上に寝っ転がっとんのは紛れも無く。
ボクの大事なモノの一つ。
そやけどにはあんまり伝わってへんみたいや。
おかしいなァ?
ボクはこんなにのこと好きやのに。
「?」
足音も霊圧も消してそうっと近付く。
そやないと斬りかかられてしまうもん。
でもはピクリともせえへん。
あらら。
熟睡しとんのやろか。
そろそろと、終にはの隣にまで辿り着いた。
長椅子の前にしゃがんでの綺麗な顔を眺める。
さらさらの黒髪。
長い睫毛に縁取られた今は見る事のできない桔梗色の双眸。
日に焼けてない肌は白く透き通るようでシミ一つ無い。
前にボクの隊の女の子達が
「さんて男の人なのにどうしてあんなに肌綺麗なんだろう。悔しい」
とか言うてたけど、ほんまに綺麗や。
そんな女の子みたいな綺麗なやけど、死覇装の下はちゃんと鍛えられとる。
剣八さんとかみたいに筋肉つかへんから細いまんまやけど、
そこら辺の力自慢の阿呆なんて敵わんぐらい強い。
新入隊員とかでをよう知らん奴は毎年痛い目に遭うとるわ。
勿論ボクも後からこっそりシメるけどな。
をナンパするやなんて、万死に値するわ。
そうやって半殺しにしたら又に怒られるのや。
何で?
ボクの為にしたのに。
「おまえは加減を知らないから駄目なんだよ」
いくらこっそり秘密にしとっても、翌日には必ずがやって来てお説教する。
「俺の為なんかに刀を使わなくっていいから」
なんで?
の為やからこそ、ボクは剣を振るうのに。
の為に強うなったのに。
お説教されてに怒られて、不満そうな顔しとるボクを。
最後には決まって頭を撫でてくれる。
昔と同じように。
「ありがとな」
って、困ったように笑いながら。
そんな顔するは綺麗やけど、やっぱり淋しそうで厭や。
「なあ、なんでなん?」
眠るの傍にしゃがんで、膝に頬杖ついて。
喉の奥から問いかけの言葉は出るけれど、核心には触れられへん。
死神になるて言うた時、はすごく哀しい顔しとった。
それが何でか判らんまま今日まできて。
そして今も解らんままでおる。
「なあ、寝とるだけやなんてつまらへんわ。起きてえや」
小さく小さく呟いてみるけど、はちっとも動かへん。
ふと、このままが目を覚まさへんかったらどないしよう、て思った。
こわい。
恐い。
背中がひんやり冷たくなるみたいな気分にさせられた。
このままずっと、が眠ったまんまやったら。
どないしよ。
暗闇にひとりきり、ずっと握っとった手を離されたみたいな。
二度と逢えへんようになるような気が、したんや。
こわくて、恐くて、気付いたら泣いとった。
泣くやなんて随分久しぶりなことやから、自分で吃驚した。
そしたら気配をようやく感じ取ったんか、長椅子の上のが身動ぎした。
「あー……?」
仰向けに寝とったが首だけボクの方を見る。
半分だけ開いた桔梗色が泣き顔のボクを映す。
「なんだ……ギン、おまえ又泣いてんのか」
しばらくボクを見ていたが寝起きの掠れた声でそう言った。
黒い死覇装の袖から伸びた白い腕が。
くしゃり、と乱暴気味にボクの頭に伸ばされる。
「しょうがねーなぁ……おまえ本当に泣き虫だな……」
「…」
ぐしゃぐしゃと遠慮なくかき混ぜられる髪。
はもしかせんでも寝惚けとる。
「ちょっと待ってろ…後で遊んでやるから、な……?」
そんでボクを昔みたいな小さいまんまやと思っとるんやな。
遊んでやるから、と言ったきり。
また眠ってしまったをじぃと眺める。
すぅすぅと軽い寝息を立てて気持ち良さそうに寝とるの手を取って小指を絡める。
ほんまやな?
遊ぶ言うたで?
約束や、ゆーびーきーりーげんまーん。
嘘ついたら一生に付き纏ってやるからな?
「そないな事せんでも一緒におるけどな」
ああ、なんやの寝顔見とったらボクまで眠くなってきたやないの。
長椅子から垂れるの手を握って、床に座って椅子に背を預ける。
外はいい天気やで、。
日が暮れる前に起きて、そしたら遊びに行こうや。
イヅルが泣きながら探しに来るかもしれへんけど。
そしたらイヅルも一緒に巻き込んで遊んでしもたらええね。
なあ、。
だから早ぅ起きて。
ボクがひとりきりやった事を思い出す前に。
書いてる私が睡眠不足です。
完成日
2005/11/29